今年から中学校で働く私が、最初に驚き、悩んだことは、小学校に比べて「牛乳」の飲み残しが多いことでした。とくに、3年生の飲み残しの多さが気になりました。そこで、何人かの生徒に牛乳を飲まない理由を尋ねてみると、その多くの答えは「太るから」でした。このように「牛乳を飲むと太る」と思い込んでいる生徒に、「牛乳を飲んだからといって太るわけではないし、今ダイエットする必要はない」ということを、どうしたら理解してもらえるのか。私はとても悩んでいます。
ここ数年2500g未満で生まれる低体重児の赤ちゃんが増えています。この原因には、喫煙の他、妊婦のダイエットが挙げられています。妊娠前の体型がやせ型で、妊娠してからの体重増加が7kg未満などの妊婦さんに、低体重児が生まれる割合が高く、赤ちゃんの体重とお母さんの体重にはかかわりがあるのです。また、低体重児は、胎内での成長が不十分だったり、乳幼児期に病気にかかりやすかったりします。成人してからは、糖尿病や高血圧、心筋こうそくなどの生活習慣病になりやすいとも考えられています。そのため、お母さんになる人がダイエットをしてやせすぎないよう、厚生労働省は妊婦向けの食生活指針をつくることにしました。子どもが元気に育つためには、生まれてからだけでなく、生まれる前から命をはぐくむ環境を、ととのえてあげる必要があるのです。
若い女の子が、美しくありたいと願い、スリム志向になる気持ちは、よくよくわかります。ダイエットの怖さ知らず、誤った知識のために将来どれほど悲しむかなんて、今は少しも考えないでしょう。けれども、不必要なダイエットをしたために、数年後、苦しみながら不妊治療をしたり、低体重児の出産に不安になったりする人がいることは事実です。そんな悲しみを背負って生きて欲しくないのです。牛乳が特別に良い食品だとは考えていませんが、「牛乳を飲んだからといって太るわけではないし、牛乳にも大切な栄養が多く含まれている。何よりもあなたはダイエットの必要がない」と、今はとにかく1人でも多くの生徒に伝えていきたいと思います。
土澤 明子 2005年5月