「一生に一度の頼みなんだ…」。
切羽詰ったA氏の声が受話器に響きます。いつもと違う様子に、事故か、事件か、と、緊張が走ります。
少し間をおきA氏は言いました。
「事情は後で。大人用のおむつを買ってきて」、と。
予想もしない言葉に脱力しながら、とにかくおむつを買いに急ぎました。
A氏の家に着きチャイムを鳴らしても、なかなか出てきません。やっぱり何かあったのでしょうか。しばらくしてドアが開くと、そこには四つん這い姿のA氏が…。そして、訴えるような眼差しでおむつを奪い、匍匐前進でトイレに消えていきました。
事の顛末は、痛風の発作に襲われ、激痛のために歩けない。トイレに行ったら痛みで歩けず、転がって寝床に行った。もう二度とトイレに行けないと思い、恥を忍んでおむつの購入を頼んだ、ということでした。痛風は、歯痛、胆石と並んだ人間の三大激痛と聞きますから、転がるのもわかります。
痛風は、高い尿酸値をそのまま放置した結果として、尿酸が関節の中で結晶化しておこる関節炎です。プリン体の過剰摂取が、尿酸値を高くする原因の1つにもなるため、尿酸値が高いとプリン体の多い食品を控える食事療法がすすめられます。しかし、厳格なプリン体制限食を行っても、尿酸値の低下はわずかだという報告もあり、食事療法の効果は人によって異なるようです。ところが、アルコール飲料の摂取をひかえめにすることは、多くの人に効果的とされています。
なぜならば、プリン体を含まないアルコール飲料であっても、アルコール自体が尿酸の産生を亢進させたり、排泄を抑えたりして尿酸値を上昇させるからです。つまり、ビールだろうが、日本酒だろうが、焼酎だろうが、アルコール飲料を過剰に摂取すれば、尿酸値は高くなるということです。ちなみに、アルコール飲料の尿酸値への影響は、日本酒1合またはビール500ml、ウイスキー60ml程度から現れるといわれています。
このことから、今後はアルコールを飲み過ぎず、極めてプリン体の多いレバーや干物も控えて、野菜やキノコ、海草を毎食たっぷり食べよう、と、A氏に伝えました。