近頃の日本では、やせは「善」で、肥満は「悪」と言わんばかりに、「メタボリックシンドローム」や「内臓脂肪」という言葉が、毎日、目から、耳から、入ってきます。そのため、太り過ぎているわけでもなく、やせる必要などないのに、やせなければいけないような錯覚を起こしてしまいます。この思い違いが、やせている女性を減量に向かわせるのではないかと心配しています。
先日、イタリアで31kgのフランス人モデルを起用し、「No.ANOREXIA(ANOREXIAは拒食症の意味)」と書かれた装飾ブランドのヌード広告が、新聞や街の大きな広告掲示板に掲載されました。拒食症の現実を見せたこの広告が与えるインパクトは大きく、話題となっています。これまで各国の政府やファッション協会も、 “やせていることが美しい”という間違った認識への対応をするため、BMI*)18を下回るやせ過ぎのファッションモデルの起用を禁止したり、キャンペーンCM(YouTubeの動画はこちら)を放映したりして、拒食症の認知度向上運動や教育をしてきました。にもかかわらず、先進国の拒食症患者は増加傾向にあり、現在の日本では、そのうえ拒食症の低年齢化が問題になっています。
誰もがなりうる拒食症が、重症化してしまうことはまれではありません。(拒食症の詳細はコラムの「その3」で書かせていただきましたので、そちらをご覧ください)。軽い気持ちのDietが、不必要なDietが、拒食症のきっかけとなります。そして拒食症を放置すれば、障害をきたした心身の回復が遅れてDieへと向かいます。だから、やせようと考えている人たちに、本当に減量が必要かどうかを今一度考えて欲しいのです。減量が本当に必要な人とは、内臓脂肪の蓄積が健康面に影響を及ぼしている人たちです。脂肪がどこにどれだけ溜まっているか、それが病気にどうかかわっているのかという質的なことが減量の指標になるのです。
「太っていないと思うけど、このへんがやせたいよね」という女性の言葉を聞くたびに、不要なDietがDieへと向かわないことを切に願うばかりです。
*BMI(Body Mass Index);
肥満度を表す指標で、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったもの。
単位はkg/m2。一般にこの値が25以上だと「肥満」、18.5未満だと「やせ」と判断される。
土澤 明子 2007年11月